闇夜の雲

それは残業しているときにかかってきた電話から始まりました。
最初かかってきたときは、いつもの妻のいつ帰るの電話だと思ってスマホを取って表示を見たら義母からでした。
「○○君(私の本名)、まだ仕事?」
「はい、そうですけど」
「何時くらいに帰れそう?」
「早くてもあと30分ぐらいはかかりそうですけど、何かあったんですか?」
「・・・・・・○○ちゃん(妻の名前)は帰っているから、できるだけ早く帰ってきて」
義母は歯切れ悪そうにそれだけ言うと、電話を切りました。

何があったんだ?

まさか自分の隠し事がばれてしまったのか?いや、あれはまだ先だったと思うけど・・・そういえば、今日は娘の個人面談があったから、娘のことで何かあったのか?でも、それなら、義母さんはそんな深刻な話し方しない気が・・・

正直、最初はそんなふうに思っていました。

とりあえず今までにないパターンだったので、仕事を途中で切り上げて上司の班長に妻の実家からすぐ戻るように言われたので帰りますと伝え、急いで家路に着きました。

しかし、こんなときに限って信号にひっかかります。

ほんと何なんだ・・・何があったのか義母さんは教えてくれなかったから、よほどのことなのだろうけど。

そう思うと気が気じゃありません。

半分ほど進んだところで、私はふとあることに気づきました。

そういえば、今日は妻が産婦人科に行く日じゃなかったか?それなら、お腹の子のことじゃないのか?それなら、義母さんの態度もうなずけるし・・・でも、あの隠し事の気がしなくもないし、そっちだったらどうしよう・・・

など、このときは自分勝手なのはわかっていますが、自分の心配をしていました。

そんなこんなで家に着いて、荷物を持って中に入ります。

すると、リビングではテレビでYouTubeがついていて、それを見ている娘がいて、そこはいつもの光景でした。

ダイニングキッチンのほうを見ると妻がいて、私をじっと見ていました。

何かあったのか尋ねると、妻は私をリビングの外に連れ出し、風呂場に行きました。

そして、もうダメかと言って、そこで急に泣き出しました。

慌てて何があったのか尋ねると、私があとで心配していたとおりお腹の子のことで、成長していないことや心拍が止まっていることを知りました。

それを聞いて、私も愕然となりました。

ついこの前までは、子供生まれたら育児休暇をとろうとか言っていたのに、まさかこんなことになるとはまったく想像していませんでした。

一瞬、娘がIpadを取り上げられたときに怒って妻の上に乗ったり、お腹の付近を蹴ったりしたのがいけなかったのではとか思いましたが、それはすぐ自分の中で否定しました。

仮にそうだったとしても、それで娘を責めることはできません。証拠ないですから・・・

このあと、妻とふたりで二階に上がり、寝室で寝転がって泣きじゃくる妻を抱きしめ背中をさすりました。

このとき、自分の無力さを感じずにはいられませんでした。

何をどう言っていいのか分からず、どう慰めればいいのかも分かりません。

ふと脳裏によぎったのが妊娠検査薬を持って泣いていた妻の姿で、それから妊娠が判明して、これから家族増えるねーって言って喜んだことや、自分の年齢できちんと育児できるか心配したことなどが走馬灯のように思い起こされました。

そんなことを考えていたら、私も自然と泣けてきて、一緒にしばらく泣いていました。

このあと、義母が夕食のおかずを作って持ってきてくれて、それを食べて、妻は2階の寝室に上がり、私は下で娘と一緒にいます。

こんなとき、妻にどんな言葉をかければいいのか、まったくわかりません。

だから、そっとするしかないと思ってあとは任せてと言いましたが、今でもどうしてあげればいいか悩んでいます。

帰宅して最初に妻と話したとき、また月曜日に病院に来てくださいと言われたというのを聞いたので、まだ病院の先生が完全にダメだと言ったわけじゃないから、私はあきらめない。だから、妻にもあきらめないでと言って、それでダメだったら、そのとき改めて考えようと言いましたが、そんな気の利かない言葉が精一杯の自分が情けないです・・・

私は神様を信じるタイプではないのですが、今回ばかりは神様にすがりたいです。

どうか、私に七難八苦を与えてもいいので、新たな命をお救いくださいと・・・